なぜ野菜の売価は安いのか?農業と政治・経済の関係性と構図をわかりやすく解説してみた

なぜ野菜の売価は安いのか?農業と政治・経済の関係性と構図をわかりやすく解説してみた

キャベツ1玉100円、じゃがいも1kg198円、トマト3玉198円、小松菜78円などが並ぶスーパーや小売店。

「世の中のモノの値段は上がっているのに、農産物の値段が安いままなのはなぜ?」

こんな疑問を感じたことはありませんか?

消費者にとっては嬉しい野菜の安さですが、一方で農家からは「これじゃやっていけない…」という悲鳴が聞こえることも少なくありません。

なぜ、野菜の売価は安いのでしょうか?

それは、農業が私たちの生活に欠かせない「食」を支える産業であると同時に、政治や経済と密接に結びついているからです。

こるきち
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そこで今回は、「市場」「農協(JA)」「農水省」「経産省」「自民党」など仕組みやそれぞれの思惑から農業について触れていきます。

わたし自身は「脱サラ就農」を目指しているサラリーマンですが、農家に興味を持ったキッカケこそが、「農」と「政治・経済」のつながりでした。

政治・経済と農家の関係性を理解することで、なぜ食卓に並ぶ野菜が驚くほど安価なのか、その複雑な背景が見えてきます。

結論から言うと、野菜を含む農産物が安い理由は「人間が生命を維持するうえで、もっとも重要なモノ」だからです。

「どういうことなのか?」世の中の仕組みを理解したい方は、最後までご高覧ください。

日本の食卓を支える農業の現状

日本の農業は、農機の開発やITの進化によって目覚ましい生産性の向上を遂げています。

一方で食料自給率の課題、高齢化、後継者不足など、様々な問題を抱えています。

食料自給率の低迷
日本のカロリーベース食料自給率は、先進国の中でも低い水準で推移。(2023年ベースで38%)
多くの食料を海外からの輸入に頼っていることを意味する。
農業従事者の高齢化
農業を担う人の平均年齢は高く、若者の新規就農は増えているものの、全体の高齢化には歯止めがかかっていない。(2024年時点で平均年齢69.2歳)
詳細(農水省公式ページ)はこちら
耕作放棄地の増加
担い手不足や採算性の問題から、使われなくなる農地が年々増加傾向。(2020年ベースで約40万ha=40億㎡)
景観を損ねる問題や、害虫大量発生などの問題が提起されている。
  • 生産数が減れば、国外輸入品に依拠するリスクが増える
  • 担い手の年齢が高齢化すれば、技術の継承や生産に対する懸念が強まる
  • 耕作放棄地が増えれば雑草が増える(イコール虫の住処が増え大量発生する)

といったロジックから、農家減少に対する懸念点が広がっています。

こるきち
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ただし、農家減少に対する見解は、政治家や農家・販売業者などそれぞれの立ち位置や捉え方で異なります。(後述します)

野菜の価格が決まる基本的な仕組み

野菜の価格は、一般的な商品の価格と同じように、需要と供給のバランスによって決まります。

しかし、野菜には「生鮮品」という特性があるため、そのメカニズムはより複雑です。

需要と供給の法則

  • 需要=買いたい量
  • 供給=売りたい量

一般的に、需要(買いたい量)が供給(売りたい量)を上回れば価格は上がり、供給が需要を上回れば価格は下がります。

こるきち
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欲しい人がたくさんいれば、売り手は値段を上げますし、逆に欲しい人が全然いなければ値段を下げてでも捌きたいということです。

ちなみに、作物が豊作になりすぎて市場に大量に出回ることで、価格が暴落し、農家の収入が減少してしまう現象を「豊作貧乏」と言います。

この豊作貧乏は、農家にとって最も避けたい状況であり、安価な野菜がスーパーに並ぶ大きな理由の一つです。

生鮮品ゆえの特殊性と流通コスト

野菜は工業製品のように在庫を長く保管することができません。

収穫時期が決まっており、鮮度が落ちれば商品価値が急速に低下します。この「足の速さ」が、価格変動を大きくする要因となります。

天候による影響
異常気象(台風、長雨、猛暑など)は、作物の生育に直接影響を与えます。
大雨が続けば病気になりやすくなる野菜もあり、猛暑になれば育たない野菜もあるでしょう。
収穫量が激減することで価格が高騰しやすくなります。
流通段階でのコスト
収穫された野菜は、選別、梱包、輸送、卸売市場での取引、小売店での陳列といった多くの工程を経て消費者の元に届きます。これらの過程で発生するコストも、最終的な価格に上乗せされます。
こるきち
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栽培が上手くいかなったときのリスクヘッジとしては、備蓄米や海外輸入などが対策として挙げられます。

特に、海外輸入品は日本国内で生産された作物より、はるかに安価な傾向にあります。

日本の作物や農家を守るために、輸入品には高い関税を課し、値崩れ(海外品の大量流入)を起こさないようにしてきました。(詳細は後述します)

農作物が食卓に届くまでのプロセスと卸売市場の役割

野菜の流通ルートは多岐にわたりますが、一般的なルートは以下です。

  1. 農家が栽培する
  2. 卸売市場が買い取る
  3. 消費者が手に取る
こるきち
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①と②の間に「農協(JA)」が入り、②と③の間に「卸売り業者」「バイヤー」などが入ることが多いです。

農協(JA)や卸売業者・バイヤーなどが介在したフローは以下です。

  1. 農家が栽培する
  2. 農協(JA)が集荷し卸売市場へ
  3. 卸売市場が買い取る
  4. 卸売業者やバイヤーが仕入れる
  5. スーパーや小売店などに並ぶ
  6. 消費者が手に取る

近年では、農家自身がネットなどを駆使して「直接販売」や「契約販売」されるケースも増えています。

ネット販売を利用すると、流通コストを削減できるため、農家はより高い収益を得やすく、消費者も新鮮な野菜を適正な価格で購入できるようになるでしょう。

しかし、販売ルートの開拓や集客、配送の手間など、農家自身の負担が増えることから、直接販売される農家は多くはなく、卸売市場の果たす役割は大きいモノがあります。

卸売市場の仕組みと意義

卸売市場は、生産者から消費者へ農産物を効率的かつ公正に流通させるための役割を担っており、取引量の調整機能も有しています。

卸売市場のフロー
こるきち
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市場から仕分けられる際に、卸売業者やバイヤーが絡み、「セリ」や「相対取引」で落札される仕組みです。

つまり、市場内では完全なる自由競争がおこなわれるということ

もちろん、農産物の絶対数が多ければ「値崩れ」を起こし、絶対数が少なければ値段は「高騰」するでしょう。

こるきち
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この仕組みが、野菜の値段が高騰しにくい理由のひとつになります。(数ある農家の作物が一点に集中するため)

生産者に価格決定権がないデメリットもある一方で、流通している絶対数を知ることもできる(フィードバックされる)ため、生産計画を立てるうえでの貴重な情報源になるというメリットも存在します。

こるきち
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ちなみに卸売市場に(農家や農協などが)商品を卸す際は、卸す商品数が多いほど高値で引き取ってもらえるケースが目立ちます。

通常の工業製品などでは、卸す数が多ければ多いほど商品単価は安価になるケースが多いでしょう。(輸送コストや手間が省けるため、商品単価を安価にしても利益が出せるからです。)

農産物ではなぜ通常と逆の現象が起きるのか?というと、以下の背景や理由があるからです。

取引の安定性と信頼性
大量・安定供給できる農家は市場での信頼度が高く、バイヤーや小売業者は安定した仕入れ先を重視するため、プレミアムを払う意思があります。
規格の均一性と品質管理
大規模農家ほど選果・選別技術や設備が整っていることが多く、均一な品質の商品を提供できます。
均一な規格の商品は、小売側の作業効率が上がるため価値が高まります。
ロットサイズのメリット
大手スーパーなどは一定量以上のロットを求めており、それを満たせる出荷者に対して優先的に高値をつけます。
セリ取引のダイナミクス
卸売市場でのセリでは、大量出荷品は複数の買い手が競り合うことで価格が上昇しやすくなります。
小ロットは特定の買い手しか興味を示さないことがあります。

要は「数をくれ!」「売りやすい状態なら高値で買い取りまっせ!」といったニュアンスです。

こるきち
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数をくれる・安定供給してくれるところに「信頼」ひいては「価値」を感じられるのでしょう。

農協(JA)の概要と世の中への影響力

農協(JA)は、農家が共同で生産資材の購入、農産物の販売、金融サービスなどを利用するための組織です。

主な役割としては、農家を支援し、消費者のもとに農産物を届けること。

こるきち
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組合員に対して「無料」で農業指導や機械の修繕を行ってくれたり、新規就農者を応援してくれたり、作った野菜の集荷販売を行ってくれたり、と農家の味方となってくれる存在です。

主な農協(JA)の事業セグメントは以下です。

経済(販売・購買)
農作物の集荷・販売や必要資材の販売を主とする事業。
農産物や農家が利用する商品(肥料・農薬・資材など)の流通を円滑にし、農家収入の安定に貢献することを目指しています。
JA全中公式ページ
営農・生活指導
農家の営農技術指導や情報提供、生活に関わる相談業務などをメインに実施。
地域資源の活用を推進し、人材育成を通じて地域の活性化に貢献しています。
JA全農公式ページ
信用
農家や地域住民向けの金融サービス。
融資や預金、外貨預金など、様々な金融商品を提供しています。
農林中金公式ページ
JAバンク公式ページ
共済
農家や地域住民の生活保障を目的とした共済(保険)サービス。
火災保険、自動車保険、生命保険など、様々な共済商品を提供しています。
厚生・医療
農家や地域住民の健康増進や福祉の向上を目的とした事業。
医療機関の確保や健康診断、介護サービスなどを提供しています。
JA全厚連公式ページ

農業分野での活動が目立ちますが、実は、事業の中核を担っているのは「経済セグメント(農産物の販売支援や資材販売など)」ではありません。

経済(農産物の集荷販売や資材販売)事業は大赤字

実はこの中で「経済セグメント(農産物の販売支援や資材販売など)」については、大赤字です。

というのは、経済事業自体が農協にとっては、そこまで稼ぐことに力を入れている事業ではないからです。

農協(JA)のビジネスモデル(稼ぐロジック)は以下のとおり。

  1. 農家を手厚く支援して組合員数を増やす
  2. 会員になってくれた人に他のサービス(主に金融商品)をすすめる
  3. 集まった資金でサービスを強化
  4. 組合員を呼び込む材料として会員を増やす
  5. 上記を繰り返す
こるきち
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厳密にいうと語弊があるかもしれませんが、農協(JA)はあくまでも「金融サービス」で稼いでいる団体であり、経済事業は全体の1割にも満たない小さな事業です。

逆に言うと、農業以外で稼ぐしかないということです。

「金融事業」は基幹事業ではあるものの酷評される理由のひとつ

農業をやっているおじいちゃん・おばあちゃんの通帳がJAバンクであったり、おびただしい共済に加入しているケースはよく見られる光景。

世の中から農協の評判が良くないのは、組合員を増やして共済などの「金融商品」を売って荒稼ぎしている、もしくは金融商品の売り方に問題があるからでしょう。

ただし、その稼いだ資金は、農家に「タダ」で(技術・営農・経営の)指導をおこなったり、機械修繕や集荷、資材供給をおこなったりと、農家のために使われています。

こるきち
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個人的には、稼いだ資金で農業支援をしてくれているわけだから、そこまで酷評する必要はないと思いますが。(農家のために走り回ってくれる担当もいるそうですし)

また、農協はその名のとおり「協同組合」であり、「株式会社」ではありません。

資金調達の手段が、株式発行による「出資」ではなく、組合会員からの「会費」といった点も、金融サービスに力を入れる要因となっているでしょう。

協同組合とは
建前上は非営利団体であり、組合員の事業を共同で支援することを目的とされている組織。
組合員は会費を支払い、組合団体のサービスを自由に利用できます。
株式会社と違い、持ち株数に応じた「議決権」が与えられるわけではなく、議決権は”1人1票”となっています。
協同組合と株式会社の違いの詳細についてはこちら
こるきち
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出資者側からすると、株式会社に比べると出資するメリットが薄く、運営者側からすると資金調達がしにくい組織ということです。

ちなみに、農協以外では「生協」が協同組合として有名です。

こちらも食料品販売サービスの他、共済や医療・介護サービスなど、幅広く事業を展開しています。

農協が政治に与える影響と自民党との関係

自民党が政権を握ってきた過去において、農協(JA)は政治面でも大きな役割を果たしてきました。

自民党の農林族議員との関係が深く、選挙における集票力や政治献金を通じて政策(方向性や予算配分)決定に影響を与えています。

農林族議員
農林水産省とのつながりが深く、農業政策に対し影響力をもつ議員のこと。
農協政治連盟と関わりの深いタイプの農林族は、国内農家保護の姿勢を取り、他国からの輸入品を抑制したい傾向にある。
土政連(全国土地改良政治連盟)と関わりが深いタイプの農林族は、農水省技官出身が多く、莫大な額の補助金の利権を得やすい傾向にある。
こるきち
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簡単に言うと、農協側には自民党の政権維持に必要なたくさんの「票(会員)」があるため、発言権を得やすい状態ということです。

農協(JA)が農家にとって有利な状況をつくるために動いてくれているのは確かですが、農協自体が利権を得ていた背景などもあって、一定数の方からは悪態をつかれているのが現状です。

ザックリ言うと下記のようなロジックです。(要はズブズブの関係)

  1. 自民党は政権維持のために票が欲しい
  2. 大口票(会員)を持つ農協を味方にしたい
  3. 有利な政策や予算枠などを農協に付与
  4. 農協は票が自民党に入るよう協力する
こるきち
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世の中から支持されているように見えない自民党が、政権を維持している大きな理由のひとつが、この農協を絡めた農民票の獲得になります。

農協が政府に与える影響
・(組合員人数)数百万人規模の選挙票確保
・重要5品目の高関税率維持
・生産調整(コメの減反政策など)
・予算確保(農業インフラや補助金・研究開発費など)

農協は、農水省や農林族議員を通じて上記のような政策に関与する場面が多々あります。

特に重要5品目の高関税率維持生産調整などは、国内産業に大きな影響をおよぼすため、大きな役割を担っていると言えるでしょう。

こるきち
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重要5品目の関税は「財務省」が、生産調整は「農林水産省」が管轄していますが、実態に近い農協(JA)にも影響力はあります。

農林水産省(農水省)の役割と思想

農林水産省の主な役割は、農業政策の立案と実施です。

思想や基本理念は以下です。

  • 国民への食料供給の安定化
  • 農業生産の振興
  • 農村地域の活性化

カンタンにまとめると、食料の安定供給で国民の生活を守り、その供給先でもある農家も守りたいといった内容です。

こるきち
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農業が「補助金ビジネス」と言われたり、重要5品目の「高関税率」を維持したりしている背景は日本(国民や農家)を守りたい思想にあります。

農産物価格の安定化と持続的な農家への支援

農水省の存在意義は、国民への食料供給安定化、ひいては食料価格を安定化させることです。

こるきち
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農家が価格を吊り上げて儲かるような状態になれば、農水省から見た場合、政策の「失敗」です。

かといって、農家ばかりが損失を被っていては、その関係が成り立ちません。農家が赤字続きであれば、いずれ潰れてしまうか、馬鹿らしくなってやめてしまうからです。

作ってくれる方がいないと、食料危機に陥るのは必至。

だから農家に対して、手厚い補助金や助成金が出たり、農業を支援するような政策が打ち出されたりするのです。

こるきち
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農家は「補助金ビジネス」と揶揄される方もいますが、一般的なビジネスとは構造や思想が違うことも覚えておきたいところです。

重要5品目の高関税率維持

関税とは、国外貿易において輸入した企業が、自国に支払う税金です。

輸入量の調整方法として扱われており、関税率が高いほど、取引相手は不利な状況になります。

関税の仕組み例
たとえば、日本がアメリカから輸入するモノに対して30%の関税率をかけているとします。
日本企業が1,000万円分の商品をアメリカから輸入した場合、30%にあたる300万円を日本の財務省に支払います。

つまり輸入した企業は、1,000万円分しか仕入れられていないのに、1,300万円のキャッシュアウトが生じているということ。
こるきち
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関税率が高ければ高いほど、輸入する側のコスト負担が重くなるため、財布のヒモが固くなります。(輸出する側にとって商品が売れにくくなるということ)

日本では「重要5品目」と呼ばれる品目(コメ・小麦・牛肉・豚肉・乳製品)の関税率や関税額が異常に高く、国内産業を守っている側面があります。

中でも「コメ」に関しては、輸入価格ベースから換算すると778%の税率が課されていたケースもあり、国外からの進出を阻止してきた背景があります。(現在は輸入されるコメの価格が高騰したため、関税率に直すと200%台ですが)

高関税率の意義は日本の農産物を守ること
海外の農場は、広大な土地、温暖な気候、安価な労働力などを活用できるため、日本よりも低いコストで大量生産が可能。
輸送コストを踏まえても、日本の農産物では価格競争には勝てません。
だから関税率を上げて、海外輸入製品の価格的メリットを消しているということ。
こるきち
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関税をかけずに海外勢と自由競争をすると、間違いなく日本の農産物は市場から無くなるでしょう。

下記をご覧いただければわかりますが、非常に高い関税がかけられています。

品目WTO協定TPP11日EU・EPA
コメ341円/kg341円/kg341円/kg
小麦55円/kg55円/kg39円/kg
牛肉38.5~9.0%
(段階的引き下げ)
38.5~9.0%
(段階的引き下げ)
38.5~9.0%
(段階的引き下げ)
豚肉4.3%または482円/kg4.3%または482円/kg低価格品:70円/kg
高価格品:2.2%
乳製品25~35%
※品目による
25~35%
※品目による
14~29.8%
※品目による
重要5品目の関税
WTO協定とは
加盟国間で合意された税率であり、貿易においてもっとも一般的に使用される関税率(額)です。(※協定内容や取引国によりますが)
加盟国は、日本、アメリカ、EU加盟国、カナダ、オーストラリア、韓国、ASEAN加盟国、インド、メキシコなどの164か国で構成される。(2025年現在)

関税率や関税額の調べ方はこちら

こるきち
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ちなみに関税率の決定権は、基本的には財務省が持っていますが、農林水産省も密接に関わっています。

減反政策と生産調整(過去の例と現状)

現在は、米のような大規模な生産調整(減反政策)は野菜にはありませんが、品目によっては生産者団体が自主的に作付面積の調整を行うことがあります。

しかし、個々の農家が生産量を厳密にコントロールすることは難しく、結果として市場に大量の野菜が出回り、価格が下落するという現象が起こることもあります。

減反政策
米の生産過剰を防ぐために実施された施策。
米の価格を安定させたい狙いから、米の作付け面積を制限していました。

小規模農家なら価格が下がったとしても、赤字額はしれていますが、大規模農家になればなるほど野菜価格の下落は死活問題になりかねません。

小規模農家とはかかるコストも桁違いのため、風向きが悪くなれば潰れていくのは大規模農家からでしょう。

こるきち
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生産調整に重きが置かれているのは、価格の安定化、ひいては大規模農家を守るためでもあります。

経済産業省(経産省)の役割と思想

経済産業省の主な役割は、国(の経済)を発展させることです。

農業観点で言えば、「農業のハイテク化」や「輸出促進」「6次産業化」などが挙げられます。

6次産業化とは
農産物をそのまま販売するのではなく、加工販売したり観光化したりして、産業の多角化・高付加価値化させることを指します。
いちごを例に挙げると、ジャム化して販売したり、いちご狩りイベントにしたりすることです。

経産省は新たなビジネスチャンスを生み出すことを目的としており、農水省のように農家を守ることにフォーカスした組織ではありません。

こるきち
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簡単に言うと、「国際競争に勝ちたい」「儲けたい」といった思想を持っているのが経産省です。

農業を発展させることに重きを置く

経産省の考えをひとことで言うと、「とにかく農業を発展させたい」に尽きます。

経産省の取り組み概要
農業機械、農業資材、食品加工機械など、農業を支える関連産業の競争力強化や技術開発を支援。
AI、IoT、ロボット技術など、先端技術を導入し、生産性向上や省力化を図るための研究開発支援を推進。
日本の高品質な農産物や食品の輸出を促進するための戦略策定や海外での販路開拓を支援。
こるきち
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農業をあくまでも「産業のひとつ」と捉えており、「低コスト化」「生産性向上」「省力化」「拡販」といったキーワードが大好きな組織です。

大規模農家(法人農家)を優先する傾向

農業を発展させたいということは、つまり「小規模農家より大規模農家を優先する」ということです。

こるきち
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なぜなら、大規模農家のほうが、より「低コスト」で「大量」に生産できるからです。

たとえば以下の2つの農家があるとします。

  • 大量の資金と農機を持っており、従業員も多数の農家A
  • 手元の資金は薄く、まともな農機も無し、従業員もゼロの農家B

どちらのほうが、生産性が高そうでしょうか?

圧倒的に農家Aのほうが有利な状態ですよね。

資本主義である限り、資本はたくさんあるところに更に集まる傾向にあります。(人もお金も土地も)

こるきち
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2025年現在においても、農業を続けられなくなった農家の土地は、大規模農家へ集約されています。

わたしがお世話になっている農家さんも、大規模農家に該当するため、廃業される農家さんから「土地を借りてくれ」とお願いされる場面が多々あるそうです。(※現在わたしは週末に農家さんのもとで修業中)

こるきち
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大規模にした「過程」や「実績」が安心感や信頼感を生むのでしょう。

農家数は減りますが、生産性が上がるため、経産省からは大歓迎でしょう。

経産省が大規模農家へ集約したい理由
「農業人口減少=経済の発展」という方程式があるから。
農業は「人間がはじめてした仕事」と言われていますが、大量に作物を作れるようになれば、農業をやめて別の仕事をする人も増えます。それを経済成長と捉えています。

農業従事者が減少することに対するそれぞれの雑感

そんな国策の対象に上がりやすい農業ですが、2025年現在は人口の現状に伴って農業人口も下落基調です。

2019年2020年2021年2022年2023年2024年
基幹的農業従事者175.7万人136.3万人130.2万人122.6万人116.4万人111.4万人
うち女性75.1万人54.1万人51.2万人48.0万人45.2万人43.1万人
うち65歳以上114万人94.9万人90.5万人86万人82.3万人79.9万人
平均年齢67.1歳67.8歳67.9歳68.4歳68.7歳69.2歳
基幹的農業従事者(出典:農林水産省)

農業従事者減少に対する各組織の立ち位置や思いは以下です。

卸売市場
作物を届けてくれるなら何だって良い。
収量増減コントロールほうが大事。
ただし少数の大規模農家への依存度が高まり、価格決定力のバランスが変化することについては懸念点が残る。
農協(JA)
組合員減少による組織基盤の弱体化と収益構造の変化に直面。
組合員数が減ればその分、金融商品の買い手も、自民党への票田も確保が困難になるため、対策を急いでいる。
自民党
政権を維持できなくなる可能性が増すため、農家減少対策したい派。
農業従事者が減ると、農協と組んだ票田確保が困難になることが予想される。
経済産業省
効率の良い大規模農家へ集約したいため、農家減少推奨派。
農業を保護対象としてではなく、「儲かる産業」として競争力を高めるべきという思想が強い。
「高効率化」「省力化」「低コスト」といったキーワードが大好きで、農業人口が減っても収量を上げられたり、付加価値を創造したりすることに意義を感じている。
農林水産省
食料自給率の向上、農家の所得安定、農村地域の活性化をテーマとして掲げているため、農家減少を食い止めたい派。
農家が減ると、耕作放棄地の拡大懸念や、大規模農家が潰れた場合の食料供給不足リスクが大きくなるため、輸入規制や補助金による農家支援策を打ち出す傾向がある。

効率が重視される現代において「農家はもっと減っていい」と主張される方や書籍もありますが、おそらくこれは「経産省」的な立ち位置から見たモノだと思います。

下記の書籍は非常に良書なので、俯瞰的に農業を見てみたい方にはオススメの一冊です。

書籍「農家はもっと減っていい」の詳細はこちら

国益のことや、より安価な野菜を国民に届けることを考えると、非常に合理的なこの意見。

「真面目にやっていない農家が農地を無駄遣いしている」といった意見も、間違いではないでしょう。

ただし個人的には、異常なまでに高効率化がもとめられている現状に違和感を感じているため、多少効率の落ちる小規模農家であろうとがんばっている農家さんには、活動を継続しやすい土台はあってほしいと願っています。

また「働き方改革」や「自由主義」の思想が強まった現在においては、兼業農家や家庭菜園に触れる人が増えるかもしれません。

こるきち
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少しでも「農」を始める障壁を少なくしたいものです。

モノがつくれることは「自信」になり、自らの「存在意義」や「満足感」を感じることに繋がりますので。

まとめ

野菜の売価が安いのは、単に「供給が多すぎるから」という単純な理由だけではありません。

  • 天候という自然の不確定要素
  • 政府の農業政策
  • グローバルな経済動向
  • 複雑な流通構造

が絡み合い、最終的に私たちの食卓に並ぶ野菜の価格を形成しています。

特に、豊作時の価格暴落、高い流通コスト、そして安価な輸入野菜との競争は、日本の農家が直面する厳しい現実です。

消費者の我々にとって、安価な野菜は家計の助けになりますが、その裏には、生産者の懸命な努力と、時に苦しい経営状況があることを忘れてはなりません。

また、農政が大きな影響を与えていることも覚えておきましょう。

農林水産省は、持続的に農家を支援しつつ、消費者が農産物を安価で購入できる土台をつくっています。

「補助金」や「政策」「関税のコントロール」はその一環であり、農家と消費者を守る役割を担ってきました。

こるきち
こるきち

農家を大事にする思想を持ち、国内農産物の安定供給を目指しているのが「農林水産省」。

経済産業省は、国内農家の発展や経済成長を促すために、IoTやAIを活用するなどして「高効率化」「省力化」「低コスト化」などを目指しています。

こるきち
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農家を保護の対象としてではなく、世界で戦える産業にしたい考えを持つのが「経済産業省」。

上記のような政治と密接に関わっているのが「農協(JA)」です。

1,000万人以上の組合員を有しており、農家の生の声を聞くことができるため、政策を打つ際の指針になったり、政治家たちの貴重な情報源になったりします。

こるきち
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政治に直接的な関係はありませんが、自民党政権において影響力があるのは圧倒的に「農協(JA)」でしょう。

長年続く自民党との既得権や、金融ビジネスモデルの影響で、解体だなんだと悪態をつかれていますが、農業部門で赤字を垂れ流しながら、農家を応援してくれる希少な団体であることは念頭に入れておきたいところです。

こるきち
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世の中から必要とされるモノや仕事ほど対価(報酬)を得にくいのは、こういった政治的側面、ひいては資本主義のもとに成り立っているからでしょう。

詳細はデヴィッド・グレーバーの著書「bullshit jobs(ブルシットジョブ)」をご覧ください。

ブルシットとは、直訳すると「クソどうでもいい」という意味です。

資本主義のリアルな仕組みがわかり、わたしの場合、「働くこと」について再度考えるキッカケになりました。

書籍「bullshit jobs(ブルシットジョブ)」の詳細はこちら

こるきち
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農業人口が減っていくこと(減っても農産物を国民に供給できる状態)を「豊か」と定義付けるのであれば、農家が減ることはある意味当然なのかもしれません。

しかし、農業の現状を理解し、賢明な選択をすること、そして持続可能な農業を支援する意識を持つことが、日本の農業、ひいては私たちの食の未来を守ることにつながるでしょう。

スーパーや小売店などで野菜を手にする時、少しだけその背景に思いを馳せてみてください。

食卓に並ぶ一品が、より豊かな意味を持つ瞬間になるはずです。

こるきち
こるきち

国民主権であることも忘れずに、選挙にも参加しましょう。

本記事が農業や政治経済に興味を持っていただけるキッカケになると、執筆冥利に尽きます。

何か感じたことや質問、間違っていることなどがあれば、コメントもお寄せください。

以上、脱サラして農家になることを目指すアラフォーの独り言でした。

最後までご高覧いただき、ありがとうございました。

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