
「事業の成長や継続には利益を上げること」
ごく普通のサラリーマンであれば、このような論調を見ても違和感を感じることはないでしょう。
しかし実は利益を出すことは、事業を「拡大」もしくは「継続」するために必要なことではありません。
現にAmazonは、創業から8年連続で赤字を計上。2015年頃までは赤字と黒字を繰り返し、黒字になったとしても軽微な額でした。
Amazonがなぜ事業を継続できたのか。また成長させてこれたのか。
この記事では、脱サラして農家になることを決めたアラフォー会社員が、お金の話をかみ砕いて説明いたします。

わたし自身は、「FP」や「簿記」などの資格を保有し、セミナーや個別相談でお金の話をしてきた経験もあるため、ロジカルな解説を心がけています。
これから事業を始める方にとっては役立つ内容でしょうし、考え方も変わるでしょう。
ビジネス視点でのお金の知識をおさえておきたい方や、農家になりたて、もしくはこれから農家になる、といった方にとって参考になれば幸いです。
結論から言うと、事業の継続や成長に必要なモノは利益ではなく「お金」です。

「利益がある=お金がある」ではありません。
また、そのお金は〇〇があることで集めることができます。
どういうことか?
詳細は本文をご高覧ください。
「利益がある=お金がある」ではない理由

前提として、会社が倒産するのは、赤字が続いているからではありません。
お金がなくなった時に会社は倒産します。
わかりやすい例を挙げると、駄菓子屋を経営している人がいたとしましょう。
手元には10万円があり、その全額10万円を「現金払い」で駄菓子を仕入れしました。
しかし、近所の子どもにすべて万引きされました。
売る商品がなくなった駄菓子屋店主は、事業をどうすることができるでしょうか。
残念ながら、店をたたむしかないでしょう。

仕入れできるお金がないのだから。
今度は仮に、最初の10万円分の仕入れを現金ではなく、「ツケ(買掛金)」で仕入れた場合はどうなるでしょう。
同じく子どもに万引きされたとしても、まだ手元には10万円残っています。
仕入れはできるため、事業自体は継続できるでしょう。
この時点では、前者も後者も利益はマイナス10万円です。

両者ともに10万円の損失を出しているのに、前者は手元資金が「ゼロ」、後者は「10万円」が手元にあるという違いが生じています。
これが、事業継続に利益が関係ない理由です。
続いて「売上」「費用」「キャッシュフロー」という観点でみていきましょう。
利益とは「売上」−「費用」のこと

利益とは売上からかかった費用を除いたモノを指します。
損益計算書上では「1年間」を基準に判断するため、当年の状況しか把握できません。(前年に上げた利益は計算外となります)
しかも「売上」も「費用」も、決してお金の流れをあらわしているモノではありません。

「売上」と「費用」の概念を知れば、手元資金の多寡が利益にまったく無関係である仕組みが理解できるでしょう。
「売上」は必ずしも現金収入ではない
「売上」に関しては、説明不要かと思いますが、モノやサービスを売った際の報酬です。
ただし、売上を受け取る方法は「現金」だけではありません。
「売掛金(ツケ払い)」もあれば、「商品券」「クレジット売掛金(クレカ払い)」「手形」などもあります。
つまり、1,000万円売り上げていようとも現金で受け取っていない限り、自由に使えるお金は1円もないということです。

意識されていない方も多いかもしれませんが、お金を受け取ることを「あと」にすればするほど不利になります。
先ほどの駄菓子屋の例を使うと、子どもが万引きしたのではなく、「今は手元にお金がないからツケにしておいてよ」とした場合、どうなるでしょう。
店には商品がひとつもなく、手元にお金もありません。
- その間の仕入れは?
- その間の家賃は?
- その間の従業員への報酬は?
キャッシュアウトが生じない事業など、この世に存在しません。
だから売上ではなく、「キャッシュフロー」を見る必要があるのです。
「費用」の概念と落とし穴
次に費用についてですが、事業に必要な出費が「すべて費用」に計上されるわけではありません。
たとえば、事業に必要な車(新車)を600万円で購入したとします。
しかしその600万円は、購入した年にすべてを費用計上できるわけではなく、(新車の場合は)6年間に分割して費用計上しなければなりません。
個人事業主の場合は「定額法」といって、毎年100万円を減価償却していきます。

つまり、購入した年は100万円までしか費用に計上できないということです。
仮に売上が600万円の場合、利益は以下のようになります↓↓
売上600万円−減価償却費100万円=利益500万円

一見、利益の出ている立派な事業に見えます。
しかし、キャッシュフロー(お金の流れ)で見ると景色が変わります。
売上も車購入も現金で行っている場合、次のようになります↓↓
売上600万円−車代600万円=0円

手元のお金はないのに、利益が500万円と計算されます。
もちろん利益が出ているため、税金はかかるでしょう。
そして税金を払えず、ジ・エンドです。
もうひとつ例を挙げます。
たとえば1,000万円「借入」をしており、毎年100万円ずつ返済しているとしましょう。

ポイントとしては、利息は費用に計上できますが、元本の返済は費用に計上できません。
つまり、毎年100万円を返して手元のお金が無くなっているのに、利益は1円も減らないということです。
借りたことに対する権利は「負債」ですが、借りたお金自体は「資産」です。

負債を減らした場合、お金という「資産」も減っていくことは、覚えておきましょう。
こんなことを言うのは道徳的にどうかとは思いますが、借りたお金は「いかに返さないのか」を考えることが大事です。
貸し手側も返さないでいてくれるほうが、半永久的に利息が入金されるのですから、都合が良くなります。
お金がある状態とは〇〇が積み上がっている状態

お金がある(資金調達できる)状態とは、どういう状態なのか?
たとえばAmazonは、もともと本の販売を生業にしていました。
最初は本当に小さなビジネスでしたが、ECシステムやクラウドサービスの開発、人や設備などに投資を続けてどんどん拡大していきました。
しかし、Amazonは万年赤字企業としても有名です。
赤字なのに、なぜ投資を続けてこれたのか?
それはお金が集められる状態だったからです。
赤字であっても、投資家に「この企業は成長する」と思ってもらえれば、投資してもらえるでしょうし、銀行から「この企業は返済してくれるだろう」と思ってもらえれば、融資もしてもらえるでしょう。
- 主な資金調達手段
- ・株式発行(投資家に投資してもらう)
・債券発行(不特定多数からの借金)
・融資(銀行などからの借金)
・補助金or助成金
・クラウドファンディング(不特定多数からの出資)
では、なぜお金が集まったのか?
それは「信用」があったからです。
- 「この企業は成長する」と考える投資家
- 「この企業は返済してくれる」と考える銀行員や債権者
彼らはいずれもAmazonに信用を置いています。
Amazonの決算書を見れば、売上高が増えていることも、投資にお金を使ったことも一目瞭然ですし、IR(投資家への情報開示資料)を見れば、「今後の展望」や「どうしていきたいのか」もわかります。

「投資をやめれば利益なんかいつでも計上できるが、あえて投資をやめない。」という考えが滲み出ていました。
- 今利益を出すことより、将来に大きな果実の成る木を育てたい
- 企業としてのブランド価値を向上させたい
- 世の中にもっと巨大な便利なサービスを提供したい
こんな思いに世の中は、イノベーションを期待していたのでしょう。
もちろん、実際に年々売上が伸びている「ファクト」があってこその「信用」ということも忘れてはいけません。

明確な「ファクト(事実)」と「思い」を語ることは、揃ってはじめて機能します。
まとめ

事業の継続や成長に大事なモノは、「利益」ではなく「お金」です。
たとえ損益計算書上で利益が出ていたとしても、お金があるとは限りません。(黒字倒産などは、その典型でしょう)
- 売上は一刻も早く「現金」として回収
- 「負債」の支払いは少しでも遅らせる
- 現金以外の「資産」はなるべく持たない(減価償却が不都合になるため)
こういったことを意識しておくことが重要です。

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また、お金は「信用の証」とも捉えられます。
信用のないところにお金は集まりませんし、興味を持たれることもないでしょう。
そして、お金は使わなければ、その信用を得ることも難しくなります。

「投資をしない(成長への意欲がない)」ところに魅力は感じませんしね。
わたし自身も、これから農業経営をしていく身でもあるため、「戒め」として胸に刻んでおきたいと思います。
- 誰が見ても明確な「ファクト」を示し
- 世の中から期待してもらえる「思い」を伝える
これらが「信用」につながるでしょうし、そういった姿勢で日々を過ごしたいと考えています。

このブログも、その一助となるよう取り組んでいます。
たとえ利益が出ていなくとも、社会的課題を解決する一助となっていれば「立派な事業」です。
目先の利益を追うのではなく、視座を高い位置に置いた行動をしたいものですね。
事業継続・成長の鍵は利益ではなく、キャッシュフロー。
お金の有無は「信用力」の多寡。
本記事がご参考になれば幸いです。