「現在勤めている会社を辞めたい…」
一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
会社という組織に属していると、安定した報酬が毎月振り込まれてくる「安心感」はあるものの、「どこで」「誰と」「何を」するのかを自分で選択することは不可能でしょう。
わたしも「自身で働き方を選びたい」と考え、様々な副業を経験したのち、現在は農業従事者になろうと活動していました。(週末に農家さんのもとで学ばせていただいています)
しかしそんな中、本業の勤め先の経営状況が悪化していたこともあり、事業収束とそれにともなうリストラが発表されました。

人生において、あまり経験することはないと思うため、そのときの一部始終を公開いたします。
会社勤めの方にとっては、低確率ですが起こり得ることかもしれません。
ご高覧ください。
メイン事業収束発表の一部始終
わたしの勤め先は、おもに半導体の材料となるモノの生産販売事業を行っています。
ザックリおおまかな規模感は以下です。
- 前年売上高は約90億円
- 2024年度は約1%程度の営業赤字を計上
- 従業員数は約330人(年齢は50代=60%、40代=35%、30代=5%程度)
- 持株会社(ホールディングス)も存在する大手
斜陽産業でありながら、2023年までは売上高自体は伸びていました。
しかし利益に関しては、赤字と黒字を行き来するような状況が続いています。
また持株会社(ホールディングス)自体は上場している大きな会社でもあるため、全拠点に対して課せられている指標は「営業利益5%以上」というモノでした。
- 営業利益とは
- 売上高から「変動費(原価)」と「販管費(固定費)」を引いたモノ。
変動費には「仕入れ費用」や製造に直接関わった人の「作業(人件)費用」などがあります。
販管費は「地代」「水道光熱費」「通信費」「人件費」「減価償却費」といった毎月固定でかかる費用のことです。
もちろん、ここ5年間でわたしの勤める拠点が営業利益5%以上を達成した年はありません。
新規事業に取り組んだりしたものの、法律上の問題が発生し撤退したため、まさに寸前の灯といった状況が続いていました。

従業員の年齢層も、9割以上が50代と40代で占められるなど、高齢化も進んでいます。
既存事業を収束して「他拠点の新規事業」を支援することに
事業撤退することを告げられたのは、2025年5月14日。
既存事業が上手くいっていないことは、誰の目から見ても明らかでしたが、資金繰り(企業の貯金)観点から見ると、「まだ数年は保つだろう」というのが大半の見方でした。
しかし、その日は突然訪れます。
会社として数ヶ月前から「他拠点の取り組んでいる新規事業」を支援する動きがあり、今後はその事業の支援を主業にするというものでした。
将来的には売り上げが「100億円を超える」と見込まれており、事業場のみならず、ホールディングス(持株会社)自体が注目している事業です。
撤退する既存事業は斜陽産業であると同時に、事業場長が取引先に対して「強引かつ不当な値上げ」を行ったため、愛想をつかされたという噂もあります。

発表を受けた社員たちは「一体何を言っているのだろう?」といった困惑を浮かべる人たちが大半を占めていました。
つい数日前までは、定例会で幹部から「現状を打破しよう」といったコメントを受けていたため、無理もありません。
事業収束にともなう約220名の「人事異動(リストラ)」
事業収束(撤退)と併せて発表されたのは、2025年12月末までに約220人のポジションクローズ。(ひらたく言うと「リストラ」)
現状330人が働くわたしの勤め先においては、半数にあたる約170人が直接モノづくりに携わっている人間でした。
既存のモノづくりをやめる=(イコール)「製造人員」と「不随する間接人員」が不要になるということです。
110人を残して、今後は他拠点と共同で取り組む新規事業に集中するという旨が発表されました。
ただし「ただ辞めてください」では、完全に労基違反になるため、以下の内容も展開されました。
- 他拠点への異動の斡旋(退職ではなくグループ会社への出向)
- 退職する場合、退職金の上乗せ(最低でも年間給与の2年分)
- 再就職先の斡旋や支援(大手リクルートサービスとの提携あり)
- 既存事業収束活動人員として会社に残る(執行猶予的なモノ)
他拠点への異動は、この中では一番変化が少ない選択肢になります。
現行の会社の制度(健康保険や福利厚生など)がそのまま使用でき、異動先が遠方になるなら、引っ越し費用や家賃補助もあるという至れり尽くせりの内容でした。
実際、すでに異動先が決まり、新たな拠点で活動を始められた方もいます。
退職する場合、(5年以上務めた人は)退職金の上乗せも実施されます。
内容としては、ボーナスを除いた年収の2年分以上が支給されるというモノ。
たとえば年収が500万円で、そのうちボーナスが100万円なら、400万円×2年分=800万円が退職金として追加支給されます。
年齢によって加算される場合もあり、多い人なら6年分支給されるという手厚い内容でした。
再就職先の斡旋や支援についてはその名のとおり「会社が転職活動を手伝いまっせ~」というもの。
大手リクルートサービスとの提携もしており、有利に転職活動を進められることを謳われていました。
同社の説明会では、手厚いサービス内容や、誰もが知る斡旋先などが展開された模様で、暗い顔をしていた従業員の表情が明るくなったという噂もあります。
個人的には、「一体いくらこの大手リクルートサービスに支払ったのだろう?」というほうに興味がそそられましたが。(ビジネスやお金の話大好きw)
また、既存事業の収束活動人員という働き方も提示されました。
基本的に2025年12月末までに約220人のリストラは実施されますが、既存事業の収束活動にも人手はかかります。
完全収束は2026年の9月を見込まれており、「完全収束までの生産活動や残務処理などをしてくれる方には、退職時に現在と同条件(再就職支援や退職金の上乗せなど)を付与するよ」という内容でした。
ひらたく言うと「考える時間(執行猶予)を与えられた」といったところでしょうか。
上記をまとめると以下です↓↓
- 退職する(退職金の上乗せと再就職支援あり)
- 異動する(退職金は無いが、引っ越し費用や家賃補助は有り)
- 執行猶予(残務処理係として、考える期間をいただく)

残留する110名を除けば、いずれを選択しても、現在の会社からは退く必要があります。
人事に関する上長との面談内容
事業収束ひいては退職も含めた「人事」については、上長との面談が行われました。
今回に関しては大きな内容だったため、課長ではなく部長と面談するというモノでした。
面談期間が始まってからは、わたしの周りで「面談呼ばれた?」「いやまだ…」なんて言葉が良く飛び交っていました。

これは、あくまでもわたしの予想ですが、「他拠点へ紹介したい人」から面談され、プロテクト(残しておきたい)人員を後回しにしていたように思います。
面談で確認された内容
ここでは、すでに面談を終えている同僚から聞いた内容を掲載します。
確認された内容は以下です。
- 今回の制度の理解度確認
- 早期退職をするかどうか
- 他拠点への異動は視野にあるか
- すでに面接を受け入れてくれる他拠点の案内
- プロテクト(残って残務処理してもらいたい)人員の場合は、残務処理の可否
「退職」か「異動」か「残務処理」をするか、を確認されたのち、進め方を提案されていたそうです。

多くの方は、「異動先」を提案されていましたし、すでに他拠点へ異動されている方もおられます。
また、会社側からプロテクト(残って残務処理をしてほしいと)打診のあった方たちは、今のところ100%受け入れられています。
残務処理をしたあとの具体的な提案はされていないようですが…(いやよく受け入れたなw)
面談をした人たちのリアクションとその後
多くの方は、異動先を提案されており、その拠点との面接を受ける方が大半を占めました。
ただその心境は複雑なモノで、異動先を歓迎するといったモノではなく、仕方なく受け入れるという後ろ向きな思考であったように見えました。

いずれも40代後半から50代の方たちが異動案内を出されていたため、転職活動が難しいと思われていたようです。
わたし自身は5年前に「転職活動」をしていたり、お金関係の資格を保有していることもあって、同僚(先輩)たちに「利用してよかったサービス」や「おさえておきたい制度」などを説明することにしました。(少しでも前向きになれるよう)
しかし、ほとんどの方が「部長からの宣告を待つ」というような受け身の体勢を取られていました。
他拠点への異動を前提にしている方たちの状況
面談で異動案内された拠点には、行けるとは限りません。

面接を受けてマッチングが取れれば異動することになりますが、実際に面接を受けて振り落とされた方も多数おられました。
おもな理由は、「健康面での不安」です。
同僚(先輩)が面接を受けられた拠点は、夜勤などもあるため体調に不安のある方の受け入れに対しては慎重でした。
面接を受けられた方の大半は、「病気経験がある」もしくは「処方箋がかかせない」「肥満・高血圧」といった状況だったため、受け入れ先が不安を感じたのでしょう。
現在も更なる別拠点の打診は続いており、行き先が決まった方たちも増えてきましたが、いずれも自宅から通うことが困難な拠点です。(自宅から通うことができる拠点であったとしても、通勤時間に1.5h以上かかるケースがほとんど)
- 単身赴任
- 家族を含めた転居
- 異動を受け入れない

いずれかの選択をしないといけませんが、今のところ「単身赴任」を選択されている方が圧倒的に多いです。
退職することも視野に活動されている方の状況
退職することを視野に入れて活動されている方の状況としては、社内での異動先の案内提示を待ちつつ、以下の内容を実施されています。
- 社外求人の閲覧と会社説明会への参加
- 転職エージェントへの登録
- 社内異動先の検索

会社都合での人員カットというだけあって、会社もある程度「求人情報」を取得してくれる状況にあります。
他社への「顔」が効くのか、様々な(特に工業関連の)求人情報が寄せられてきます。
その中から気になった企業の「説明会」へ参加される方も少なくありません。
説明会に参加された方の話を伺っても、「最新の設備を使っててテンションが上がった」「工場内環境が整っていてよかった」など、印象が良い声も伺えました。
実際に退職したあとには、会社と契約している大手リクルートからのサービスを受けることができますが、個人的に数社の転職エージェントに登録されて、面談されている方も数名おられます。

日産も2027年度までに2万人の従業員削減を発表されているため、動きは加速させる必要があるでしょう。
また弊社には、「社内移籍」というサービスもあり、個人で他拠点へアピールして移籍することも可能です。(プロ野球でいう「FA宣言」みたいなモノ)
したがって、自身のやりたいことや条件が合う事業場に移籍される方も過去に何名かおられました。
今回もまた、上司から異動の内示を受けていない方なら、行きたい拠点を自ら探すこともできるため、異動の案内を受ける前に「条件の良い他拠点」を検索されている方もおられます。
今回の件を受けたわたし自身の所感
今回の事件をまとめると「既存事業を撤退するため、220名の従業員のリストラを敢行する。」といったモノです。
残留される110名以外の方は、下記のいずれかの選択をしないといけません。
- 社内での異動先の模索(単身赴任や大規模な引っ越しをともなう可能性「大」)
- 退職(会社側からの再就職支援もあるが、個人活動が中心となる)
- 執行猶予(既存事業の収束活動要員として1年半程度従事)
現状は上長から宣告された「異動」を受け入れる選択をされている方が大半を占めています。
その中で特に感じたことは以下です。
- 起こり得ることへの”準備”の大切さ
- “受け身”ではなく”主体性”を持つことの意味
起こり得ることへの”準備”の大切さ
冒頭でも申し上げましたとおり、弊社の経営状況は決してよくありませんでした。
したがって、遅かれ早かれこのような状況が訪れることは、誰しも容易に想像できたはずです。
- 自身の市場価値を(転職エージェントなどを通じて)調査したり
- 世の中から需要のあるスキルや知識を修得したり
- 副業をして個人で稼いでみたり
- 自分の興味を持てることを探すために旅をしたり
- そのジャンルのプロに話を伺ったり
など、やるべきことはいくらでもあったでしょう。

サイレンが鳴っていたにも関わらず、気付かなかったフリをして寝ていた訳ですから、ある意味当然の結末かと思います。
逆に準備(危機管理)していれば、動き出しはスムーズになるでしょう。
自分にとって都合の悪い情報を受け入れることこそが、危機回避(準備)につながるのだと身を持って感じた次第です。
“受け身”ではなく”主体性”を持つことの意味
今回の件を受けて多くの方(というか9割5分以上の方)が、上司から異動先を宣告されるのを待っておられました。(まるで戦時中の人たちが食料品などの「配給」を受け取るかのように。)
“会社員”という性質上、仕事は「取ってくるモノ」ではなく、「与えられるモノ」といった感覚が多くなるからかもしれません。
「自分で決める」というのは、言葉にするほど簡単ではありません。
自分で決めた以上は「責任」が問われるからです。
それが本能的にわかっているからこそ、人は誰かに選んでもらいたいのだと思います。
しかし「選んでもらうのが、幸せになる」とはわたしには到底思えません。
異動先を告げられた同僚(先輩)からは、「うわ~、最悪や~、〇〇行けって言われた~」という声もあれば、「お前まだマシやん。俺なんて〇〇を案内されたぞ。」なんて言葉もよく耳にしました。
個人的には、「なぜ文句を言ってまで受け入れるのだろう」という疑問はぬぐえませんが、やはり自分で決めることに対する「責任」が、その人にとっては重いのでしょう。
- 家族を養わなければいけない
- お金がない
- 大企業の看板を失うと世間体が悪くなる
- こんな年齢から再就職は不可能
いろんな思いがあるのでしょうが、そこに「主体性」はありませんでした。
一方で「主体性」を持って活動されている方からは、ネガティブな声や話を聞く機会は激減します。
失敗したとしても「自分で選んだから仕方ない」と、責任を受け入れているからなのでしょう。
わたし自身「どちらの人間になりたいか?」と問われれば、間違いなく「後者」を選びます。
不平不満を言いながら毎日を過ごす人より、失敗しながらも前に進もうとする人間のほうが魅力的に感じるからです。

今回の件で、「主体的」に行動する意味と難しさがよくわかりました。常日頃から自分で選択する癖を付けておきたいものです。
以下は、わたしが感じた「脱サラをするために必要なこと」をまとめた記事です↓↓
まとめ
今回起こった事件は、要するに現職を失うことに行き着きます。
退職に限らず、社内異動をしようが、既存事業の収束活動に従事しようが、今の立場は失うことになるでしょう。
そんな状態になったときに、大事になってくるのは以下であると考えます。
- 何を選んでも「正解はない」という事実を受け入れること
- 与えられるモノを受け入れるのではなく、自身で掴み取ろうとする「主体性」
- 主体性を磨くためのさまざまな「知識」と「経験」

主体的に物事を選択することができれば、後悔したり、文句が口をついたりする場面は激減するでしょう。
ただし、何もないところから選択することは物理的に不可能です。
だからこそ、選択肢を生み出すために普段からさまざまなインプットをしておくことが重要になります。
「経験」をすれば、興味が湧くことにも出会う可能性は上がるでしょう。
興味が湧けば、その事柄についても調べるため「知識」も身に付きます。
わたし自身は先輩から「お前はいいな、若いしやりたいこともあるし」と言われましたが、そういった言葉が出てくるのは、以下が要因だと考えています。
- やりたいことが見つかるまでに至っていない経験不足
- 年齢を重ねた相応の知識やノウハウが蓄積されていないが故の自信不足

先輩から出た言葉は「無意識」のモノだと思いますが、少々キツイ言い方をすると「卑屈」な思いから生じたモノでしょう。
わたし自身も「あぁしておけばよかった」などといった後悔がないよう、出来るだけ多くのことを経験し、様々な事象に対して興味を持てる人間になろうと強く思いました。
死ぬときに「充実した人生だった」と言えるように、”主体性“を持って前へ前へと「歩」を進めたいものです。
